3年12班の愉快な面々 36

教員室では先生達の話し合いが持たれていた。「何処かの遊園地で無難に過ごしたらどうですか?よみうりランドなんかどうです?」「いや、登山がいい。大山とか高尾山とか、いい山は沢山ありますよ」秋の遠足場所の選定だ。

そこでF先生が「この子達にとって学生最後の遠足なんですよね。記憶に残る遠足にしてあげたい。そこで、夜間登山はどうでしょうか?これから社会に出て行く上で苦労を知る事も大切ですから…」

多くの先生が賛同して、季節的に「尾瀬」がシーズン末と言う事で夜間登山が決定した。「早朝の温度は氷点下まで下がり非常に寒いので、防寒服を始め寒さ対策をしっかりする様に」と言う注意もあった。

「え〜!夜間登山?だるいよ〜!疲れるし 寒いし…」と 不満の声は上がったが「良い思い出になるぞ」と言う先生の話に騙されて?決定した。 日にちは10月26日から27日 。夜8時に学校を出発。約8時間の行軍になる。

8時に学校に集まった学生達は班ごとに分かれてバスに乗り込む。我が12班もマイクロバスに乗り込んだ。

「何? あんた、なんて言う格好してるの?山登るのよ!山!」とNMがM道を見ながら声を上げた。「山って言ったって半分に切った丸太の道を歩くだけだろ?楽勝だよ!」とM道は笑う。「バカね!そこまでは山を登るの!誰が革靴で山登りするのよ!」とNMは呆れながらまくし立てる。

「え、そうなの?」と登山大好きなSGに聞いた。SGは「そうだね。最初は結構キツイ山登りになるよ。ゲソは…ハハハ、キツイかな?それに寒いよ」と笑いながら言った。

「そうなんだ〜💦誰か靴持ってない?貸してくれ」と悲壮な顔で訴えた。するとSGが 「靴はないけど、防寒着はもう一着持って来たから貸すよ」と言って厚手のジャンパーを貸してくれた。

「さぁ、これで準備は出来た。尾瀬制覇は目の前だ!」とM道が大口をたたいたので「バカね!そもそも登山するのに革靴履いてセーターにスラックスで来ておいて何をエラそうに言ってるのよ。呆れるわ」と溜息混じりにNMが言うとバスは笑いに包まれた。

バスは一路『尾瀬』に向かう。(作者:このM道の軽薄さが…)

「富士見下」でバスを降りると既に時計は11時を過ぎていた。 先生からの注意があり、1班から順に登山道に入る。富士見下から富士見峠にかけては結構キツイ坂道を登って行く。(注:地図参照)

ものの10分もしない内に息が上がり悲鳴が出る。「はぁはぁ、なんだこの坂、メチャメチャキツイじゃねぇか…」その上、前日に雨が降ったのか、地面がぬかるんで滑りやすいので、必要以上に力が入る。

キツイ坂を登り切って富士見峠を踏破した時点で休憩を挟んだ。時計は2時半。まだ辺りは真っ暗だ。緩い下り坂に入り竜宮十字路からようやく尾瀬ヶ原に至る。丸太の木道を進むこの道は、明かるければ最高の景色が見えるのだが…

見晴十字路からは、再び緩やかな登りに入り、登り切ったら目的地の『尾瀬沼』に到達する。この頃になると周りも大分明るくなって来た。

周りが徐々に明るくなり、日の出を迎える。「うわー綺麗!」「紅葉がすごいね!」鮮やかに彩られた山々と、尾瀬沼を絨毯のように埋め尽くした草紅葉(くさもみじ)を朝陽が神々しく照らす。

東に向かって歩く木道を道しるべの様に、溢れんばかりの陽の光が眩しく照らした。学生達は、まるで夢想郷の中を歩く様に丸太の木道を進む。

5〜6月なら 名物の水芭蕉が咲き誇るハイキングの名所だが、今は紅葉が真っ盛りだ。尾瀬沼も茶色い草紅葉でまるで茶色い絨毯の上を歩いているようだ。

果てしなく続く木道を約1時間ほど進むと、休憩地点の「長蔵小屋」に到着した。気温は氷点下まで下がって非常に寒い。「さぁ、ここで朝食を食べるぞ」とF先生が叫んだ。「よっしゃー」「腹減った〜」と喜ぶ学生達。おのおの持参した弁当を開く。

「な、なんだこれ?」とあちこちで声が聞こえる。「オ、オニギリが…凍っている…」あまりの寒さにご飯が凍っているのだ。また「あったけ〜」と小屋で売ってる熱い味噌汁を口に含み白い息を吐く者もいる。寒がる学生達を見てF先生はニヤリと笑って、カバンの中から何かを取り出した。

「ほら、一口ずつ飲め。温まるぞ!」と茶褐色の飲み物を学生達に渡した。(ウイスキーだ…)一口含むと、喉から食道を通って体内がカーッと熱くなる。「ありがとうございます」と学生達は回し飲みし、先生の手元に戻った時は空になっていた。12班の男子の顔も見えた。

「さぁ、最後の行程に向かうぞ!もうすぐゴールだからな!気を抜くなよ。事故は最後が起きやすいからな!」とF先生が注意を促した…
それなのに…

※尾瀬遠足の行程(地図も見てね)
学校🚌バス: 富士見下→富士見峠→竜宮(尾瀬ヶ原)→見晴→尾瀬沼(長蔵小屋)→三平峠→大清水:バス🚌学校

4 COMMENTS

ユンマイケルビンセント

作家さん画家さん管理人さん本当に面白い🤣ありがとう

匿名

尾瀬、学生時代の忘れられない思い出の1つです。卒業して何度か行ってみました。いつも秋の10月の下旬、紅葉に照準を合わせて行程を組んだけど、やっぱりあんなに楽しい山歩きにはならなかった。楽しかった尾瀬の山歩きは、単に紅葉が綺麗だっただけではなくて、気の合う仲間がいての事だったんだと改めて思う。本編をみて尾瀬の写真を見直して、益々みんなを懐かしんでます。 挿し絵、夜間行軍。後ろの人が前の人を押してあげてる❗泣ける❗笑笑

低山ガール

高校生活の最後の遠足を 決めるにあたっての生徒を想うF先生の言葉が 心にジーンときます(T_T)私も登山の知識が全くなかったので風を通すセーターを着ていって凍えるほど寒かったのを覚えています。おにぎりも凍っていたし…🍙この登山のおかけで一生山登りはしないと心に決めましたが、50歳を過ぎる頃から一人で時々低山登山をしています。勿論尾瀬も水芭蕉の季節も紅葉の季節も何度か登りました。いつもあの【尾瀬】の看板の前に行くと高校3年のあの頃にタイムスリップします(笑)一生忘れない大切な思い出のひとつです。作家さん、画家さん、管理人さん…本当にありがとうございます(*˘︶˘*).。*♡

匿名

低山さん、1人で行くんですか⁉️遭難しないように気を付けてね💕 うちの近くにスカイツリーと同じ高さ634mの低い山がありまして、そこは往復2時間なんだけど、そのくらいなら私も1人で行きますよ。さすがに尾瀬は勇気が無いけど、もう一度行きたいな~⛰️
尾瀬にもう一度行こうよとF先生が言ってましたね。還暦の遠足ね。笑

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