3年12班の愉快な面々 32

いよいよ本番の日を迎えたス◯達舞踊部は朝から練習に余念がなかった。舞台は大会準備で使えないため、中体育室で練習を行った。公演時間は午後5時過ぎから。まだ時間がある、が、体を動かさないと不安になる。

ス◯の頭に昨日あった二つの出来事が浮かんで来た。ひとつは、先生から「ス◯、明日の公演を歌劇団のスカウトの人が見に来るらしいわ。あなたの夢を叶える意味でも、最後の舞台をしっかり輝かせましょう」と言われた事だ。

ス◯は小さい頃から舞踊が好きで将来は金剛山歌劇団に入る事が夢であった。その夢を叶える一歩前まで来ている。ここで座り込む訳にはいかなかった。

あとひとつは、最後の舞台をどう輝かすかと部員達と話した事だった。演目が決まってからと言うもの部員達はそれこそ一心不乱に練習に打ち込んで来た。その自信からか、最後の舞台は絶対成功させて見せると口々に決意を述べた。競演大会がなくなったと言う話を聞いた時の衝撃と絶望。歯を食いしばって絶望の淵から這い上がって、最後の舞台で東京朝高の力を見せつけようと部員達と誓ったあの時、あの気持ち。その気持ちを今日まで持ち続け、最高の舞台を演じる準備は整った。

ス◯は、あと何時間後に迫った最後の舞台を目前にして、絶対に成功させると言う決意の反面、本当に大丈夫なのかと言う不安に心が揺れていた。「ス◯、何を難しい顔してるのよ。」と部長が声をかけて来た。

「ううん、何にも…ちょっと考え事してただけ。」とス◯は笑いながら答えた。部長はス◯の隣に腰を下ろした。「あと何時間後、全て終わって笑顔で話せてたらいいな。私達の最後の舞台…輝かせたいね…」いつもは感情を口に出さない部長が、珍しく心情を明かした。ス◯も頷きながら部長の手をグッと握った。

部室で準備を整えてス◯達舞踊部は、中体育室で最後の調整を始めた。本舞台の方から音楽が聞こえて来る。「始まった!」誰かが声を上げた。(でも私達は自分の舞台だけだけど、ブラバン、民管、合唱部は最初から最後までずっと出てるんだから大変よね)ス◯は仲のいい楽団の友達の顔を思い出しながら気を使った。

「さぁ、行くわよ!」先生の号令がかかり部員達は一斉に「옛!」と声を上げて舞台袖に移動した。ス◯は舞台袖で舞台演奏を終えた民管のCFに声をかけた。CFはニコリと笑っていそいそと舞台下へと移動して行った。

舞台に上がり定位置についたス◯は胸の高鳴りを感じながら、ゆっくりと目をつむった。ドライアイスのスモークが熱を帯びた体に心地良かった。音楽が鳴り出した。幕が上がる。スモークがかかった舞台に青白い照明が光り、その中に東京朝高舞踊部の、恍惚な舞台が始まった。観客席からは「ほぉー…」と言う声にならないため息が漏れた。

♬나라에서  나라에서  돈을 보낼줄은♬旋律に乗ってゆっくりと踊りが始まった。

日本で解放を迎えた同胞達は失った言葉と民族の魂を取り戻す為に「民族教育」を始めた。米軍と日本当局の迫害、暴力、それに屈しない同胞達の戦い、その中で犠牲になった若い少年…国家権力と言う巨大な力に立ち向かい、傷付き疲れ果てた同胞達に、ウリナラから「教育援助費と奨学金」が送られて来る。まさか、まさかと涙する一世の同胞達…

♬…높고 큰 이사랑을 산이나 바다에 그어이 비기랴♬

情感豊かに踊る舞踊部の姿を見て、観客席の同胞達は涙を流している。音楽がクライマックスに達した。ス◯は溢れる情感を抑えながら、長く伸ばした指先に感情を集中した。スポットライトが指先を照らす。かすかに震える指先が涙で曇る。音楽が余韻を残しながら静かに止まった。

暗転。
(終わった…)堪えていた涙が溢れて来た。会場からは割れるような拍手が起こった。

暫く放心状態だったス◯達舞踊部員は整列して挨拶した。観客達はスタンディングオベーションで讃えた。袖にはけた部員達に向かって「まだ終わりじゃないわよ!さ、支度して!」と先生がハッパをかける。部員達は急いで着替えに走る。

芸術公演のフィナーレは『만풍년』だった。日本広しと言えども『만풍년』をできるのは東京朝高だけだと言う自負を持って参加者達は最後の舞台を盛り上げた。

♬풍년이 왔네 〜풍년이 왔네 〜만풍년 왔네〜♬

「좋다!」
『ウォン!』と言う残響音が文化会館に響く。
「ワー‼️」万雷の拍手が沸き起こる。

その余韻は終わる事を知らない様に長く続いた。そして、芸術クラブの最後の舞台は、大成功のうちに幕を下ろした。ただ舞台に立つス◯に熱い視線を投げつける眼差しがあった。

芸術クラブの最後の『활무대』は終わりました。さぁ舞台は9月から10月の「運動会」へと向かいます。が、ここで学校をひっくり返す大きな事件が待っています。我が愛する12班の面々はどうするのか?物語もいよいよ佳境に入って行きます。

2 COMMENTS

舞踊部の公演成功裏に終えられて良かったですね。
演目に込められた同胞の熱い想い、今日の面々もつい涙してしまいました。(歳と共につい涙もろくなって)
この歌も大好きな歌です。

その時、舞台下で演奏していた

記憶が曖昧なのだが、一度だけ、練習中に舞台を見ながら演奏した記憶があります。선생님이 「자~동무들 무대를 보고 연주해봅시다」とおっしゃったので、皆一斉に後ろを振り向いて演奏し始めました。その時、感極まって泣きながら踊る舞踊部の美しい姿に感動した覚えがあります。面々32を読んで思い出しました。

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